宮脇檀さんの本の書評を書きました(だいぶ前ですが・・・)
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伊礼智氏が読む「出てないディテール」

今こそ読むべき名著11「建築NOTE 宮脇檀 人間のための住宅のデ ィテール」(宮脇檀著)

2016/12/15

当コラムは毎週木曜に、「今こそ読むべき名著」と「今を考える近刊」を交互に 掲載しています。「今こそ読むべき名著」の第11回は、住宅設計を中心に活動 し、ディテールに関する著書も多い伊礼智氏に登場いただきます。推薦書は、学 生時代に「熱病のように憧れた」という宮脇檀氏の著書、「人間のための住宅の ディテール」です。(ここまで日経アーキテクチュア)



宮脇檀さんほど住宅を社会に伝えた建築家は いないのではないだろうか?

少なくとも住宅 建築家というジャンルを確立した人と言ってよ いだろう。

学生の頃、今思えば熱病のように宮脇檀さん に憧れた。

琉球大学の建設工学科1期生として入学し、ず っと宮脇さんの本を読み続け、宮脇檀が書いた文章が出ている雑誌は

すべて目を通し、図書館 でコピーをとり、ファイリングしていたくらい だ。

宮脇さんの「てにをは」を飛ばした文章は歯切れが良く、自虐的な、機関銃の ような文章にまで憧れて

よく真似をしたものだった。


「若い人が宮脇さんに憧れる理由は、ちょっと背伸びすれば真似できなそうこ とをカッコよくやっているから」と

ある評論家に言われたとか、自虐的に面白 おかしく書かれた文章は、僕の20代前半を虜にしたのだ。

しかし、僕は宮脇さんの「カッコよさ」のみに憧れたわけではなかった。

「常識がかっこよさをまとっただけ」とも言われていたとのことだが、その常 識が新鮮だった。

宮脇さんは常に吉村順三先生を師と仰ぎ、折に触れ、吉村先生の仕事や言葉を 語ってくれた。

宮脇さんに箍(たが)をはめていたのは吉村先生だったのだ。

宮脇さんの言葉を通して吉村順三を理解したと言ってよい。

宮脇さんがいなければ、僕も同世代と同じく、急速にのし上がってきた安藤忠 雄さんあたりに傾倒し

沖縄という地域性もあって、断熱材なしのコンクリート の建築好きな設計者となっていたことだろう。

吉村順三を語るときの宮脇さんはその時代への不満や居心地の悪さを、吉村先 生を通して語っていたように感じた。

そして、宮脇さんに傾倒するのと同じく、だんだんと吉村先生を宮脇さんの師 匠として

オリジナルとして、傾倒していくようになった。


ディテールおたくによる、ディテール好きのための...

宮脇と吉村に憧れると、芸大に進みたくなるのは当然。

吉村イズムを学びたい と、大学院を弟子である奥村昭雄先生の研究室に進む。

その時に手にした本が今回紹介する「建築NOTE 宮脇檀 人間のための住宅の ディテール」(丸善)である。

この本は「新建築」誌に連載していたものをまとめた本とのこと。

様々な建築家の(自身も含む)その時代の住宅のためのディテールを、宮脇さ ん自身でセレクトし

事務所を訪ねヒアリングしてまとめている。

開口部周辺、建具およびその周辺、トップライト、設備一般、台所、雑部位、 空間性のおさまりなど

49項目に及ぶディテールはオリジナル図面だけでなく、 宮脇さんの2000字前後の解説がつく。

ディテールや建築論だけでなく、建築家論でもあり、失敗談満載、俗世間的雑 談(?)に加えて

実務家としての宮脇檀の本領が発揮された本なのだ。

今をもってしても、このようなディテール本が書ける建築家はいないだろう。

実務経験の無い学生であったにも関わらず、その内容に引き込まれ、読み込む うちに建築通になっていく錯覚がよかった。

本の中に出てくる建築界の著名人の人柄まで伝ってくるようだ。

宮脇さんはこの本の終盤・石井修さんの「回帰草庵」(自邸)を「出てないデ ィテール」(ダじゃれ!)と題して紹介している。

その中で、この連載を通して、優れた先輩方の見事なディテールを青図で見る ことができたのが楽しみだったと書いている。

ただし、苦しみもあって、なかなか良いディテールというものに出会えなかっ たとのこと、

ディテールというと、派手な「仕掛けもの」を選びがちになってし まうことなど

ディテールとは仕掛けものであると思い込まれてしまうことが気 になっていたようだ。

本当はひっそりと影に隠れているものこそ、本当の良いディテールと解いてい る。

吉村先生や村野さん、吉田五十八にはそのようなディテールが多いらしい。

石井修さんのディテールに触れて、良いディテールとは知識と経験に裏打ちさ れた

さりげない「出ていないディテール」にこそあるのではないかと反省す る。


理想のディテールとは

そして最後の項目では「ディテールにならないディテールが大事」という域に 到達する。

ディテールは原寸の話だが、原寸だけ(ディテール)が良くて、全体がアウト という建物はひとつもないと言い切る。

良いディテールを持っている建物は必ず全体のコンセプトなり、構成が確実で あって

その基本概念を受けて細部までディテールがフォローするのだという。

だから、虫眼鏡的にディテールのみに熱中してはいけないと言う。


吉村順三さんが「吉村順三のディテール 住宅を矩形で考える」(吉村順三・ 宮脇檀著、彰国社)の中で

「良いデザインの基本はプロポーションしかないと 思います、

品格を決めるのは贅沢な材料であるとか、必要以上に手間をかけた建 築では

かえって品が出なくなる場合も多い」と述べている。

これは素材自慢、ディテール自慢に陥ってはいけない、暮らしを支える人間の ための納まりを考えるべきであると

言われているように感じる。

宮脇さんの本を手にして32年の歳月が過ぎ、それなりに建築の知識と経験を積 み

恥ずかしながらもディテールの本も出してきた。

久々にページをめくり、決 して古いディテール本だとは思えなかった。

自分の血肉となってきた本であることはもちろん、宮脇さんのディテールに対 する類い稀な審美眼と

熱意と毒気と愛情溢れる文章は、今の時代にこそ多くの 気付きを与えてくれると思う。



建築NOTE 宮脇檀 人間のための住宅のディテール

著者:宮脇檀 判型:B5変形判 ページ数:208ページ 出版社:丸善出版 発売:1984年 定価:本体3400円+税


伊礼智(いれいさとし)

1959年沖縄県生まれ。83年琉球大学理工学部建設工学科計画研究室研究生修了、85 年東京芸術大学美術学部建築科大学院修了。

丸谷博男+エーアンドエーを経て96年、 伊礼智設計室開設。2007年「町角の家」でエコビルド賞受賞。2013年、i‒works project でグッドデザイン賞。著書に「伊礼智の住宅設計」「伊礼智の小さな家70の レシピ」「伊礼智の住宅設計作法―小さな家で豊かに暮らす」など。弊社刊「建てる 前に読む 家づくりの基礎知識」でも講師の1人を務めた。













伊礼智設計室
〒171−0031
東京都豊島区目白3−20−24
メール:irei@interlink.or.jp
tel/fax03-3565-7344

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by satoshi_irei | 2023-04-04 18:40 | ・住まい・建築 | Trackback | Comments(0)


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